会社のキャラクターをイラストレーターに描いてもらい、代金も支払った。半年後、そのキャラクターでグッズを作ろうとしたら、「その使い方は契約に入っていません」と言われた——。

イラストの発注では、こうした行き違いが起こります。原因になりがちなのが、「代金を払ったのだから、絵は自社のものになった」という思い込みです。

先に結論をお伝えします。イラストの制作を依頼して代金を支払っても、それだけで著作権が発注した会社に移るわけではありません。著作権を自社のものにしたいなら、契約で「譲渡」を決めておく必要があります。

この記事は、イラストを描く人ではなく、イラストを発注する企業のご担当者に向けて書いています。著作権譲渡とは何か、利用許諾とどう違うのか、譲渡するときに契約書のどこを確認すればよいのかを、著作権法の条文と文化庁の資料をもとに整理しました。イラストとデザインを日々制作している私たちアークデザインの、描く側からの視点も添えています。

依頼先の選び方や、発注時に伝えることについては、イラストの発注方法|依頼先の選び方・伝えること・進め方の記事にまとめています。

クリップボードに挟んだ書類を、ペンで示しながら確認している手元。

結論:代金を払っても、著作権は自動では移らない

イラストの著作権は、描いた人に生まれる

著作権法では、著作物を創作した人が「著作者」になり、著作者が著作権を持ちます。そして、その権利を持つために登録などの手続きは要りません(著作権法第2条・第17条)。イラストであれば、描き上がった時点で、描いたイラストレーターに著作権が生まれます。

文化庁の「誰でもできる著作権契約マニュアル」も、この点をはっきり書いています。依頼者が報酬を支払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはならない。依頼者が作品を使うには、著作権者から使うことの了解を得るか、著作権を譲り受ける必要があり、それを契約書で定めることが必要だ、としています。

一方で、著作権は、その全部または一部を譲渡することができます(第61条第1項)。「著作権は譲渡できるのか」という疑問への答えは「できる」です。ただし、譲渡は自動では起きず、当事者が合意して初めて成立します。

データを受け取ること、「買い取り」と書くことは、譲渡とは別

よくある誤解が2つあります。

ひとつは、納品データを受け取ったら自社のものという考え方です。文化庁のマニュアルは、絵画を購入しても手に入るのは絵の「所有権」であって「著作権」ではない、と説明しています。データを受け取ることも同じで、手元に絵があることと、その絵を自由に使える権利を持つことは別の話です。

もうひとつは、見積書や発注書に「買い取り」「買い切り」と書いておけば足りるという考え方です。何をどこまで買い取るのかが書かれていなければ、後で解釈が分かれます。文化庁は、制作を依頼した側が著作権を得るには「完成した著作物の著作権は制作を依頼した側に帰属する」というように契約で合意しておく必要があるとしています。

社員が描いた場合とは扱いが違う

社内のデザイナーが仕事として描いたイラストは、一定の条件(会社の発意で、職務として作成し、会社の名義で公表するものなど)を満たせば、契約や就業規則に別段の定めがない限り、会社が著作者になります(第15条 職務上作成する著作物)。社外に発注した場合はこれに当たらないため、権利の扱いを契約で決める必要がある、というのが違いです。

著作権と著作者人格権は、別もの

著作権の話を難しくしているのは、「著作権」と呼ばれるものが、実は2つの層に分かれていることです。

著作権(財産としての権利) 著作者人格権
守るもの 作品を使ってお金を生む権利 作者の気持ち・名誉
主な中身 複製する・ネットで公開する・形を変えて作り直す(翻案)・作り直したものを使う など 公表するかどうか決める(公表権)・名前を表示するか決める(氏名表示権)・勝手に変えられない(同一性保持権)
譲渡できるか できる(全部でも一部でも) できない
根拠 第21条〜第28条、第61条 第18条〜第20条、第59条

著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができません(第59条)。つまり、著作権をすべて譲り受けても、著作者人格権は描いた人に残ります。ここが、後で説明する「改変」の話につながります。

著作権の二層構造を示した図解。上段の「著作権(財産としての権利)」には複製・公衆送信・翻案・二次的著作物の利用が並び、発注者へ矢印が伸びている。下段の「著作者人格権」には公表権・氏名表示権・同一性保持権が並び、描いた人の側に残ることを示している。

「譲渡」と「利用許諾」、どちらを選ぶか

イラストを使う方法は、大きく2つあります。

譲渡:自社が権利者になる

著作権を譲り受けると、自社が著作権者になります。文化庁のマニュアルは、依頼者にとってのメリットとして、作品を自由に使えるだけでなく、他人がその作品を使うことを制限できるようになる点を挙げています。

その一方で、描いた側にとっては、譲渡後は譲渡先の了解なしにその作品を使えなくなり、似た作品を描くことも制約されるというデメリットがある、とも書かれています。譲渡を求めるときは、この事情を理解しておくと、話し合いがスムーズになります。

利用許諾:決めた範囲で使わせてもらう

著作権は描いた人に残したまま、決めた使い方の範囲で使うことを認めてもらう方法です(第63条)。許諾を受けた側は、その許諾の方法と条件の範囲内で作品を使えます。

文化庁のマニュアルは、許諾の契約では使い方をできるだけ具体的に書くように勧めています。たとえば、印刷物なら名称・部数・期間・地域、Webサイトならサイト名と掲載期間、といった書き方です。また、自社だけが使えるようにしたい(独占的に使いたい)場合は、その旨を契約で定めておく必要があります。許諾でも「他社には使わせない」という約束はできる、ということです。

使い方から決める、判断の目安

どちらがよいかは、そのイラストを何に、どのくらいの期間使うかで決まります。以下は判断の目安です。法律で決まった区分ではなく、判断の材料としてご覧ください。

使い方 向いている形 理由
会社・商品のロゴ 譲渡 期限なく、あらゆる媒体で使い、商標として扱うこともあるため
長く使う企業キャラクター 譲渡(第27条・第28条を含む) ポーズ違い・グッズ・着ぐるみなど、形を変えて展開していくため
広告・キャンペーン1回分のビジュアル 利用許諾でも足りることが多い 使う媒体と期間が決まっているため
Web記事・資料の挿絵 利用許諾でも足りることが多い 用途が限られ、改変の予定が少ないため

企業キャラクターは、最初の1体を作ったあと、季節ごとのイラストや派生キャラクターへと広がっていくことがあります。私たちも、マスコットキャラクター「ペンていくん」「ペンていちゃん」の派生イラストを制作しています。キャラクターの作り方や展開については企業キャラクター・マスコットキャラクターの作り方で詳しくご紹介しています。ロゴについてはロゴデザインのページをご覧ください。

「著作権を譲渡するとどうなるのか」をひと言でまとめると、自社が権利者になり、使い方の自由と他社を止める力を得る。その代わり、描いた側はその絵と似た絵を自由に描けなくなる、ということです。

譲渡と利用許諾のどちらを選ぶかを示したフロー図。「期間を決めずに長く使う?」「ポーズ違いやグッズなど形を変えて展開する?」「他社に同じ絵を使わせたくない?」の3つの問いに、はいが多いほど譲渡、いいえが多いほど利用許諾に進む。

譲渡するなら「第27条・第28条を含む」と書く

ここが、発注する側がもっとも見落としやすい点です。

書いていないと、展開に必要な権利が描いた人に残る

著作権法第61条第2項は、次のように定めています。著作権を譲渡する契約において、第27条または第28条に規定する権利が「譲渡の目的として特掲されていないとき」は、これらの権利は譲渡した者(描いた人)に留保されたものと推定する。

つまり、契約書に「著作権を譲渡する」とだけ書いてあると、第27条と第28条の権利は描いた人の手元に残っている、と推定されます。「推定」なので反対の事情を示せば覆る余地はありますが、それを争うこと自体が大きな負担です。

第27条・第28条とは何か

  • 第27条(翻訳権・翻案権等):作品を翻訳・編曲・変形・脚色・映画化するなど、形を変えて新しい作品を作る権利
  • 第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利):そうして作られた新しい作品(二次的著作物)を使うときに、元の作品の著作者が持つ権利

二次的著作物とは、著作物を翻訳・編曲・変形・脚色・映画化などの方法で作り直して創作した著作物のことです(第2条第1項第11号)。文化庁のマニュアルは、二次元のアニメキャラクターを立体化してフィギュアを作ることを例に挙げています。

企業のイラストで言えば、こういう場面

  • 平面のキャラクターをぬいぐるみ・フィギュア・着ぐるみにする
  • キャラクターに別のポーズや表情、季節の衣装を描き足す
  • 数年後に、元のイラストをもとにリデザインする
  • 1枚のイラストをもとにアニメーション動画を作る

いずれも、元のイラストを「形を変えて作り直す」使い方です。第27条・第28条の権利が描いた人に残っていると、こうした展開のたびに了解を取る必要が出てきます。

文化庁のマニュアルには、譲渡契約の規定例として「本著作物に関するすべての著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)を譲渡する」という書き方が載っています。譲渡を受けるなら、契約書にこの括弧書きが入っているかを必ず確認してください。

なお、著作権は複製権・公衆送信権など個別の権利ごとに譲渡することもできます。その場合は、譲り受ける範囲で自社の目的が果たせるかを慎重に検討する必要がある、と文化庁は注意を促しています。

著作者人格権は譲渡できない。改変する予定があるなら契約で決める

サイズ・色の変更やトリミングでも問題になりうる

著作者人格権のうち、発注した企業に関係が深いのが同一性保持権です。著作者は、自分の作品とその題号を、意に反して変更・切除その他の改変をされない権利を持っています(第20条)。

文化庁のマニュアルは、イラストや写真の場合、サイズの変更、色調の変更、縦横比の変更、一部の切除であっても、同一性保持権の問題が生じる可能性がある、としています。そして、著作権を譲り受けた者であっても、著作者の了解なく作品を修正したり、他の人に修正を依頼したりすることはできない、と説明しています。

社内でバナーに合わせて切り抜く、背景色を変える、別の制作会社に手直しを頼む。発注する側にとっては日常的な作業ですが、契約で決めておかないと、これらが問題になりえます。

「行使しない」と約束する条項(いわゆる不行使特約)

そこで実務では、著作者人格権を行使しないことを契約で約束してもらうことがあります。文化庁の改訂版マニュアルにも、利用者に自由に使わせる必要がある場合などに、著作者人格権を行使しない旨を規定する例も見受けられると書かれています。一般に「著作者人格権の不行使特約」と呼ばれますが、これは著作権法の条文にある言葉ではなく、契約の実務で使われている呼び方です。

もうひとつの書き方として、文化庁は、一定の範囲の改変だけをあらかじめ承諾してもらう規定例も示しています。たとえば「利用の態様に応じたサイズ・色調の変更や一部の切除は承諾する。ただし本質的な部分を損なうことが明らかな改変はできない。それ以外の改変は事前に承諾を得る」という形です。

描く側にとっての不利益も知っておく

文化庁は、著作者が人格権を行使しないことにすると、依頼者が作品を改変・修正したり、著作者の名前を表示しなかったりしても、異議を述べられなくなるという不利益が生じる、と注意を促しています。

「なんでも自由に変えてよい」と包括的に決めるより、実際に予定している改変の範囲(トリミング、色の変更、文字の追加など)を具体的に書くほうが、描く側との話がまとまりやすく、後のトラブルも防げます。

クレジット(名前の表示)をどうするか

著作者には、作品に名前を表示するかどうか、どんな名前で表示するかを決める氏名表示権があります(第19条)。広告や商品パッケージでは作者名を入れない使い方もあるため、名前を表示しなくてよいのか、表示するならどこにどう入れるのかを、契約書で明らかにしておきましょう。文化庁も、著作者名を付さなくてよい場合はその旨を契約書に明示するよう勧めています。

費用はどう変わるか

「著作権譲渡の相場はいくらか」「譲渡は無料なのか」と気になる方もいるでしょう。

まず、譲渡の対価がいくらになるかに、法律で決まった基準や公的な相場はありません。無料になるかどうかも含めて、当事者の契約で決まります。

文化庁のマニュアルは、作品を作ってもらう契約の対価には、①創作作業への対価(作業料)と、②利用許諾の対価または著作権譲渡の対価が含まれると整理しています。そして、対価に著作権の譲渡の対価が含まれる場合は、その内訳を明記したほうが望ましいとしています。

前に書いたとおり、譲渡は描く側にとって「似た作品を描けなくなる」などの制約を伴います。そのため一般的には、同じイラストでも、利用許諾か譲渡か、第27条・第28条を含むかどうかで見積りが変わることがあります。見積書を比べるときは、金額だけでなく、その金額に権利の譲渡が含まれているのか、含まれているならどの範囲かを確かめてください。

描いた人の実績公開をどうするかも決めておく

著作権を譲渡すると、描いた人は、譲渡先の了解なしにはその作品を使えなくなります。自分の作品集やWebサイトに実績として載せることも、了解が必要になります。

文化庁のマニュアルには、著作権を移転しつつ、著作者自身がその作品を利用することを認める規定例や、「自身の制作活動に必要な場合」など利用方法を指定して認める規定例が載っています。

発注する側として決めておきたいのは、次の2点です。

  • 実績として公開してよいか(社名を出してよいか、作品だけならよいか)
  • いつから公開してよいか(新商品の発表前は出さない、など)

発表前の商品やキャンペーンのイラストが先に公開されてしまう、といった事故は、この2点を決めておくだけで防げます。

発注前・契約前のチェックリスト

確認すること 決めておくこと 根拠・出典
何に、どのくらいの期間使うか 媒体・期間・地域・部数。将来の展開予定(グッズ・動画など) 文化庁マニュアル(許諾の範囲を具体的に)
譲渡か、利用許諾か どちらにするか。許諾なら独占かどうか 第61条・第63条
譲渡なら第27条・第28条を含むか 「第27条及び第28条に規定する権利を含む」の記載 第61条第2項
改変の予定 トリミング・色の変更・文字入れ・他社による手直しの可否と範囲 第20条、文化庁マニュアル
著作者人格権の扱い 行使しない約束をするか、一定範囲の改変を承諾してもらうか 第59条、文化庁マニュアル
クレジット表記 名前を表示するか、どこにどう表示するか 第19条
対価の内訳 作業料と、許諾または譲渡の対価を分けて書く 文化庁マニュアル
実績公開 公開の可否・時期・範囲 文化庁マニュアル(著作者の利用を認める規定例)
権利が移るタイミング 「対価の支払いにより移転する」など 文化庁マニュアルの規定例

まとめ

ポイント 内容
代金を払っても著作権は移らない 譲渡するなら契約で決める(第17条・第61条、文化庁)
著作権と著作者人格権は別 著作者人格権は譲渡できない(第59条)
譲渡か利用許諾かは使い方で選ぶ ロゴ・長く使うキャラクターは譲渡、1回の広告は許諾でも足りることが多い
譲渡なら第27条・第28条を明記 書かないと描いた人に残ると推定される(第61条第2項)
改変の予定は契約に書く サイズ・色の変更やトリミングでも問題になりうる(第20条)
対価の内訳と実績公開も決める 作業料と権利の対価を分ける(文化庁)

イラストの権利は、「何に使うか」を先に決めれば、選ぶべき形が自然と決まります。発注する前に、社内で使い方を整理しておくことが、いちばんのトラブル予防です。

なお、この記事は一般的な仕組みの解説です。個別の契約内容については、弁護士などの専門家にご相談ください。

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納品したイラストの著作権は、お客様へ譲渡します。 第27条・第28条の権利の扱い、改変やお名前の表示、私たちの制作実績としての掲載など、細かな条件は、お使いになる予定を伺いながら契約の際にご相談ください。

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