「キービジュアルを作ってほしい」と社内で言われた。あるいは制作会社から「まずキービジュアルを決めましょう」と提案された。けれど、メインビジュアルと何が違うのか、何をどこまで決めればいいのかが分からない——。

キービジュアルは、広告やイベントの現場で当たり前のように使われる言葉です。そのわりに、定義がはっきりしないまま話が進むことがよくあります。

この記事は、キービジュアルを作る人ではなく、発注する人のための記事です。イラストの描き方やレイアウトの技法は扱いません。そもそも何なのか、メインビジュアルとどう違うのか、どう進むのか、依頼する前に何を決めておけばいいのかを整理しました。

イラストとデザインを手がけている私たちアークデザインが、実際に納品したキービジュアルを例に解説します。

1枚のキービジュアルは、ポスターやチラシ、WebやLP、SNS、会場装飾や看板、パンフレットやチケット、グッズへと展開される。横長・正方形・縦・縮小・切り出しと形が変わるため、展開先を決めないまま作ると作り直しになる

キービジュアルとは

ひとことで言うと「その企画の顔になる1枚」

キービジュアルとは、ひとつの企画やブランドを代表する、中心になるビジュアルのことです。「KV」と略されることもあります。

大事なのは、1枚で完結するものではないという点です。作ったキービジュアルは、ポスターにもWebにもSNSにも展開されます。あらゆる接点で同じ印象を届けるための、共通の軸がキービジュアルです。

だからこそ、どこに展開するかを決めないまま作ると、あとで作り直しになります。 この記事でいちばんお伝えしたいのはここです。

何に使われるか

実際の展開先は、企画によって変わります。よくあるのは次のようなものです。

展開先 使われ方
ポスター・チラシ そのまま主役として大きく使う
Webサイト・LP トップの背景や主役画像として使う
SNS 正方形・縦型に組み替えて投稿する
会場装飾・看板 横長に引き伸ばして使う
パンフレット・チケット 縮小して部分的に使う
グッズ 一部を切り出して使う

同じ絵でも、縦横の比率と情報量が場所ごとに変わります。 ここを見込んで作るかどうかで、あとの手間がまったく違ってきます。

看板やのぼり、大判のポスターなど、実際の出力まで含めてご相談いただくこともできます(印刷・出力のページ)。

キービジュアルが必要になる場面

「うちにも必要なのか」という判断に迷ったときの目安です。次のどれかに当てはまるなら、作る価値があります。

複数の媒体を同時に動かすとき

ポスターとWebとSNSを別々に作ると、それぞれの担当者が良かれと思って違う方向に寄せてしまい、同じ企画に見えなくなります。

先にキービジュアルを決めておけば、あとは各媒体がそれに合わせるだけです。判断の回数そのものが減ります。

期間が決まっている企画のとき

イベント、キャンペーン、周年企画のように始まりと終わりがあるもの。期間中は同じ顔で通したほうが、印象が積み上がります。

周年企画については周年ロゴの記事もあわせてご覧ください。ロゴとキービジュアルは役割が違いますが、同じ企画の中で両方作るケースがよくあります。

言葉だけでは伝わりにくいとき

新しいサービス、抽象的なコンセプト、体験してもらわないと分からないもの。説明が長くなるほど、1枚の絵に置き換える効果が大きくなります。

逆に、作らなくてよい場合

正直にお伝えすると、次の場合は無理に作る必要がありません。

こういうときは不要 理由
使う場所が1か所しかない その媒体のデザインだけで足りる。「軸」を作る意味が薄い
商品そのものを見せれば伝わる 商品写真のほうが速い
企画の中身がまだ固まっていない 何を軸にするかが決まらないと、絵も決まらない

とくに最後は重要です。キービジュアルは「決まっていることを絵にする」もので、「絵から企画を決める」ものではありません。

メインビジュアルとの違い

検索してこの記事にたどり着いた方の多くが、ここを知りたいのではないかと思います。

呼び分けは、現場によって揺れている

先にはっきりお伝えします。キービジュアルとメインビジュアルの呼び分けに、業界共通の決まりはありません。

同じものを指して使う会社もあれば、分けて使う会社もあります。私たちも社内で厳密な使い分けは決めていません。だから「どちらが正しいか」を議論しても、あまり意味がありません。

実務では「どこに使うか」で決まる

とはいえ、分けて使う場合は、おおむね次のような整理がされています。

キービジュアル メインビジュアル
指すもの 企画・ブランド全体の軸になる1枚 特定の媒体で主役になる1枚
範囲 広告・Web・会場・グッズまで横断する そのページ、その紙面の中
使われる場面 広告キャンペーン、イベント、ブランド立ち上げ Webサイトのトップ、LPのファーストビュー

「Webサイトのトップに置く画像」を指してメインビジュアルと呼ぶケースは比較的はっきりしています。Web制作の現場でよく使われる言い方です。

実務で困らないコツは、言葉の定義を詰めることではなく、「どこに使うのか」を先に確認することです。 相手がどちらの言葉を使っていても、展開先が合意できていれば話は進みます。

メインビジュアルの作り方については、メインビジュアル制作の記事で詳しく解説していますので、Webサイトや広告の主役画像をお探しの方はそちらもご覧ください。

ビジュアルアイデンティティ(VI)との関係

もうひとつ、混ざりやすいのが「VI(ビジュアルアイデンティティ)」です。

  • VI … 会社やブランドが長期的に使い続ける見た目のルール(ロゴ、色、書体など)
  • キービジュアル … その企画の期間中、軸になる1枚

VIは何年も変えないもの、キービジュアルはキャンペーンごとに作り替えるもの、と考えると整理しやすいです。VIの範囲内でキービジュアルを作る、という関係になります。

ブランド全体の設計から相談したい場合は、ブランディング・企画デザインのページもあわせてご覧ください。

キービジュアルに求められる3つの条件

良し悪しを分けるのは、絵のうまさではありません。次の3つです。

① 一目で何の企画か伝わるか

キービジュアルが見られる時間は、多くの場合ほんの数秒です。通りすがりに目に入る、SNSで流れてくる、提案資料の1ページ目に出てくる——そういう場面で勝負が決まります。

そのため、象徴的なモチーフで意味を一瞬で伝える設計が効きます。

  • 龍 → 力強さ、運気
  • 桜 → 日本らしさ、季節感
  • 光 → 未来、希望

言葉で説明しないと伝わらないキービジュアルは、その時点で条件を満たしていません。

よくある失敗: 社内では意味が通じるのに、外の人には伝わらないパターンです。関係者だけが知っている背景を前提に作ると、これが起こります。社内で見せ合う前に、企画を知らない人に1回見せてみると分かります。

② 縮小しても崩れないか

見落とされがちなのがこれです。

大きなポスターでは美しく見えても、SNSのサムネイルやチケットの隅に縮小したとたん、何も読み取れなくなることがあります。細かい描き込みが潰れ、文字が読めなくなり、主役が埋もれます。

作る段階で、いちばん小さく使われる場面を想定しておく必要があります。

よくある失敗: 大判ポスター用に細部まで描き込んだ絵を、そのままSNSのアイコンサイズに縮めるケース。情報量が多いほど、小さくしたときに何も残りません。主役を1つに絞り、それだけは小さくしても分かる設計にしておきます。

③ 展開先すべてで成立するか

横長のポスター用に作った絵を、そのまま縦型のSNS投稿に使おうとすると、主役が切れてしまう。よくある事故です。

縦・横・正方形のどれで使うのかを最初に決めておけば、その全部で成立する構図を設計できます。 逆にあとから追加になると、描き直しに近い作業が発生します。

よくある失敗: 主役を画面の端に置いた構図です。横長では美しく収まっていても、正方形に切ると主役が枠外に出ます。比率が変わっても残る位置に主役を置くのが基本です。

キービジュアルの例

写真で作る場合と、イラストで作る場合の違い

キービジュアルは写真でも作れます。実在の商品や人物を見せたいときは、写真のほうが適しています。

一方で、イラストで作るキービジュアル(キービジュアルイラスト)には、写真にない強みがあります。

写真 イラスト
実在感 強い 弱い
世界観の自由度 撮れるものに限られる 制約がない
他社との差別化 素材が似通いやすい 被らない
情報の圧縮 1場面しか写らない 複数の要素を1枚に詰められる
修正 撮り直しが必要 部分的に描き変えられる

近年は写真素材やAIで生成した画像が増え、広告のビジュアルが似通いやすくなっています。 「他と違う見え方にしたい」という目的であれば、イラストを選ぶ理由は明確です。

実例:キービジュアルイラストで作ったドバイのイベント「TWENTY TWENTY」

ドバイのイベント「TWENTY TWENTY」の横長キービジュアル。浮世絵の様式でDJと観客を描き、背景に日本とドバイの建築を配置している

私たちが制作した、JWD様のイベント「TWENTY TWENTY」のキービジュアルです。ドバイで開催された、日本人DJによるイベントでした。

浮世絵の様式でDJと観客を描き、背景に日本とドバイの建築を配置しています。「日本のカルチャーを海外に持っていく」という企画の中身が、説明なしで伝わることを狙った構成です。

注目していただきたいのは、次の1枚です。

同じキービジュアルを縦長の誌面用に組み替えたもの。横長版で左右に広がっていた構図が縦に積み直されている

同じキービジュアルを、縦長の誌面用に組み替えたものです。横長版では左右に広がっていた構図を、縦に積み直しています。人物の配置も、背景の要素も、比率に合わせて組み替えました。

単に切り抜いたのではありません。 主役の位置も背景の要素も、縦の比率で成立するように置き直されています。 これが前章「③展開先すべてで成立するか」の実際の姿です。

企画アイデアの例

方向性が決まらないときの手がかりとして、よく使われる企画の型を10挙げます。そのまま使うためのものではなく、「どの方向で考えるか」を絞るための道具として見てください。

1. 和 × 未来

伝統的なモチーフと未来的な要素を組み合わせます。龍とネオン都市、神社とサイバーパンク、日本画とSF。インバウンド広告や観光プロモーションで強い型です。既視感のあるモチーフ同士でも、掛け合わせると新しく見えます。

2. 巨大モチーフ

街の中に巨大なものが現れる構図。巨大な龍が都市を駆ける、巨大な商品が空に浮かぶ。スケールの違和感がそのまま目を引く力になるので、SNSでの拡散を狙う場合に向きます。

3. ストーリー型

1枚の中に時間の流れを持たせます。過去から未来へ、朝から夜へ、四季。地域プロモーションや周年企画のように「積み重ね」を伝えたい企画と相性がよい型です。

4. シンボル集中型

ブランドや地域の象徴を1枚に集約します。名物を全部盛り込む、商品の特徴を象徴に置き換えて並べる。情報量が多くなるので、ポスターなど大きく見せる媒体向きです。

5. 世界観ポスター

映画のポスターのように、世界観そのものを描きます。冒険、未来都市、神話。商品を直接見せずにブランドの気分を伝えたい場合に使います。

6. キャラクター主役型

ブランドキャラクターを中心に据えます。親しみやすく、シリーズとして続けやすいのが利点です。単発で終わらせず、来年も再来年も使う前提なら有力な選択肢になります。企業キャラクターの作り方はこちらの記事で解説しています。

7. モチーフ融合

異なる要素を1つにします。龍と富士山、桜と都市、海と宇宙。2の「巨大」が大きさで驚かせるのに対し、こちらは組み合わせの意外性で引きます。

8. ミニチュア世界

世界を小さく表現する構図。街が商品の中に入っている、手のひらにサービス全体が乗っている。細部を見る楽しさがあるので、じっくり見てもらえる場面に向きます。

9. 日本文化アート

日本画や浮世絵の様式を使います。海外向けの企画で特に効きます。 様式そのものが「日本のもの」という情報を運んでくれるので、説明が要りません。

10. メタファー

コンセプトを象徴に置き換えます。成長を木に、未来を光に、繋がりを糸に。抽象度が高いぶん上品にまとまりますが、伝わりにくくなる危険もあります。 条件①「一目で伝わるか」と照らし合わせてください。

先ほどのTWENTY TWENTYは、「日本文化アート」と「シンボル集中型」を組み合わせた形です。

作り方の流れ(発注者が関わるところ)

キービジュアル制作は1コンセプトの整理、2ラフ・方向性の確認、3仕上げ・展開データ作成の3段階。発注者が関わるのは1と2で、大きな方向転換ができるのは2のラフまで

制作会社によって呼び方は違いますが、おおむね3つの段階で進みます。発注側の出番は①と②です。

①コンセプトの整理 ←発注者の出番

何の企画なのか、誰に届けたいのか、どんな印象を持ってほしいのかをすり合わせます。

ここで制作側が代わりに決められないのは、次の2つだけです。

  • 誰に見せるのか
  • 見た人にどうなってほしいのか

モチーフや構図、色は、この2つが決まっていれば制作側で組み立てられます。

②ラフ・方向性の確認 ←発注者の出番

簡単な線画や構図案で、方向性を確認していただきます。

ここで見るのは絵の完成度ではなく、方向が合っているかです。

  • 伝えたいことが、この絵で伝わるか
  • 事実と違っている要素はないか(商品の形、業界の慣習など)
  • 展開先すべてで成立しそうか

大きな方向転換ができるのは、この段階までです。 仕上げに入ってから「やっぱり別の案で」となると、描き直しになり、追加の費用と時間が発生します。

③仕上げ・展開データの作成

本描き、着彩と進め、完成させます。あわせて展開先ごとのデータを作ります。

横長版、縦長版、正方形版、文字なし版——どの形が必要かは①で決めた展開先によります。 ここを最初に決めておくことの意味が、この段階で効いてきます。

依頼するときに決めておくこと

展開先を全部書き出す(ここを抜くと作り直しになる)

いちばん重要です。

「とりあえずポスター用に」と作ったあとで、「SNSでも使いたい」「会場の横断幕にも」と追加されると、構図から作り直しになることがあります。使うかもしれない場所は、多めに挙げておいて損はありません。

最初に分かっていれば、1枚の絵を複数の比率で成立させる設計ができます。追加費用も、あとから頼むより小さく済みます。

写真かイラストか

これは早めに決まっていると進みが違います。迷う場合は、次を目安にしてください。

  • 実在する商品・店舗・人を見せたい → 写真
  • まだ存在しないものを見せたい/世界観を作りたい/他と被らせたくない → イラスト

決めきれない場合は、「こういう雰囲気にしたい」という参考イメージを1〜2点お持ちいただければ、こちらから提案できます。イラストの作例はオリジナルイラスト制作のページでご覧いただけます。

相談前のチェックリスト

ご相談の前に、次が埋まっていると1回の打ち合わせで方向が決まります。全部埋まっていなくても構いません。埋まっていない項目が分かること自体に意味があります。

  • [ ] 誰に見せるのか
  • [ ] 見た人にどうなってほしいのか
  • [ ] 使う場所をすべて書き出したか(いちばん重要)
  • [ ] いちばん小さく使われるのはどこか
  • [ ] いつまでに必要か
  • [ ] いつまで使うか(今回限り/来年以降も)
  • [ ] 写真かイラストか(未定でも可)
  • [ ] 参考にしたいイメージがあるか

費用は何で決まるか

金額はご相談の内容によって変わるため、ここでは何によって上下するのかを整理します。見積りを見比べるときの物差しとしてお使いください。

費用が動く5つの要素

要素 費用が上がる方向
展開先の数 縦・横・正方形と形が増えるほど、組み替えの作業が増える
描き込みの量 登場人物が多い、背景が細かい、質感を作り込む
写真かイラストか 写真は撮影費・モデル費・ロケ費が別途かかる。イラストは描く時間が費用になる
企画からやるか コンセプトの整理から入るか、決まった内容を形にするだけか
使用範囲と期間 Webのみか印刷物も含むか、いつまで使うか、二次利用があるか

いちばん効くのは展開先の数です。 1つの形だけなら1枚の制作費で済みますが、縦横正方形と必要になれば、その分の組み替えが乗ります。

見積りを取るときのコツ

「キービジュアル一式でいくらですか」と聞くと、比較できない見積りが返ってきます。 どこまでが「一式」かが会社ごとに違うためです。

次の3つを揃えて伝えると、比べられる見積りになります。

1. 展開先の一覧(ポスター/Web/SNS/会場装飾など、使う予定の場所を全部)

2. 写真かイラストか(決まっていなければ「両方の案で」と伝える)

3. 使用期間(このキャンペーン限りか、来年も使うか)

まとめ

  • キービジュアルは「その企画の顔になる1枚」。 1枚で完結せず、あらゆる接点へ展開される
  • メインビジュアルとの呼び分けに共通ルールはない。 言葉を詰めるより「どこに使うか」を確認する
  • 良し悪しを分けるのは3つ。 一目で伝わるか/縮小しても崩れないか/展開先すべてで成立するか
  • 発注側が決めるのは「誰に見せるか」「どうなってほしいか」だけでよい
  • 展開先は最初に全部書き出す。 ここを抜くと作り直しになる

私たちアークデザインは、キービジュアルの企画段階からご相談いただけます。キービジュアルイラストで作る場合は、社内のイラストレーターが絵柄に合わせて制作し、展開先ごとのデータまで一式でお渡しします。

「写真とイラストのどちらがいいか分からない」という段階からで構いません。企画の中身をうかがったうえでご提案します。